渋谷区ふれあい植物センター

「香り」を頼りに、私だけの一杯を。コーヒー界の最前線スペシャルティブレンドの世界を覗いてみよう

渋谷区ふれあい植物センターでは、「農と食の地域拠点」をコンセプトに、植物と食、暮らしとのつながりを身近に感じられる取り組みを行っています。今回取り上げるのは、植物の恵みであり、私たちの暮らしにも身近なコーヒーにまつわるイベントです。本イベントに参加したボランティアメンバーは、毎年3月に募集をしています。ご興味を持たれた方は、ぜひお問い合わせください。※イベントなどの内容は、今後変更になることがあります。
以下記事は、講師にお招きしたAmalight Coffee澤田のめぐみさんのお話をもとに、当日の様子をレポートしています。ぜひご一読ください。

華やかだったり、果実のようだったり、ひと癖のある発酵の気配がしたり。スペシャルティコーヒーの個性豊かな香りを頼りに、自分だけのブレンドをつくってみよう—。そんな、コーヒー好きにはたまらない贅沢なイベントが、7月26日、渋谷区ふれあい植物センター3階のギャラリーで開催されました。コーヒーは、産地や農園ごとの個性を味わうシングルオリジンが一番。そんなコーヒー好きの「常識」がある一方で、最近では、個性の異なるスペシャルティコーヒーをあえて掛け合わせ、新しい味や香りを生み出すブレンドにも注目が集まっているそうです。
普段はあまり意識することはありませんが、普段私たちが何気なく飲んでいるコーヒーは、コーヒーチェリーというコーヒー木に実る果実の種子。つまり、植物の恵みです。そんな視点からコーヒーの世界を深めるべく、ふれあい植物センターを拠点に活動する有志ボランティア「ふれ植渋谷カカオ&コーヒープロジェクト」のメンバーと、神奈川県相模原市のスペシャルティコーヒー店Amalight Coffeeとのコラボレーションで実現した今回のワークショップ。待っていたのは、香りと味が幾重にも重なり合う、想像以上に奥深い世界でした。

コーヒーを「香り」で味わう

「コーヒーって、飲み物だよね?」

この日のふれあい植物センターのギャラリーには、思わずそう口にしたくなるような光景が広がっていました。

バーカウンターにずらりと並んだのは、香水瓶のようなガラス容器。蓋部分には、あまり見慣れないラッパ型のファネルがついています。瓶の中には、細かく挽かれたコーヒーが入っていて、列になった人たちが、次々に顔を近づけています。目をつぶって唸ったり、歓声をあげたり、熱心にメモを取ったり。ブレンドコーヒーをつくるイベントのはずが、「味見」をしている人は、ひとりもいません。みなさん、匂いをかいでいるのです。

それもそのはず。この日開かれていたのは、コーヒーの「香り」に着目したワークショップです。

コーヒーと聞いて一般的に思い浮かべるのは、苦味や酸味などの「味」。けれど、その印象を大きく左右しているのは、実は香りなのだそう。

「僕はコーヒーが大好きなのですが、7割くらいは香りを楽しんでいる感覚。飲んでいておいしいと思う時は、おそらく豆が持っている本来の香りを楽しんでいるんじゃないかと思っています。」

渋谷区ふれあい植物センター園長の小倉さんは、そう話します。

「コーヒーというのは、総合芸術だと思うんです」と、ゲスト講師の澤田めぐみさんも続けます。コーヒーの味は一般的に、甘味、酸味、苦味という3つの基本的な味に、「ボディ」と呼ばれる口あたり、「アフターテイスト」と呼ばれる後味などで構成されています。それらと香りが複雑に作用しあってはじめて、私たちが「コーヒーの味」として感じる味わいや風味が生まれるそうです。

「舌先で感じる味と、鼻先で感じる香り。どちらが大事とか、どちらが優位というわけではなくて、バランスが大事です」。普段はAmalight Coffeeで焙煎を担当している澤田さん。この日はワークショップのために、とっておきのコーヒー豆とともに、相模原から駆けつけてくださいました。

香りを頼りに、想像でブレンドする

澤田さんがブレンド用に用意してくださった豆は、全部で8種類。どれも個性的な香りをもつ種類のため、たとえコーヒーに詳しくなくても特徴が掴みやすいものばかり。繰り返し嗅ぐうちに、「なんとなく好みだな」という特徴がわかってきます。

でも、ブレンドするとなると話はまったく別。今回は、味の土台をつくる「ベース」の役割を果たす種類と、エッジのたった「アクセント」の役割を果たす種類から、一つずつ選んでブレンドします。それぞれが、混ざった時の味と香りを頭の中でシュミレーションするのは至難の技。どれを混ぜるか、なかなか決めることができません。

そんな参加者を見かねて、小倉さんから助け舟が。

「どうしても決められない場合は、産地に注目してみるというのも、ひとつの手です。」

コーヒー豆の産地には、アジア、アフリカ、南米などがあり、異なる大陸で育った豆同士を組み合わせると、味に深みが出ると言われているそう。土壌や気候の異なる土地で育った豆同士を掛け合わせることで、奥行きのあるブレンドになりやすいということです。

「逆に、相性がよくない組み合わせというのもあります」と、澤田さんが続けます。

「たとえば、酸がクリアなウォッシュドタイプと、渋みのあるコーヒーを混ぜると、苦味が強調されて飲みにくくなることがあります。シングルで飲んだときには魅力的な個性でも、混ぜることで味や香りが喧嘩してしまうんです。」

個性を際立たせた希少な豆同士だからこその、ブレンドの難しさがありそうです。


種類と分量で、組み合わせは無限大

ベースとアクセントを一種ずつ選んだら、いよいよテイスティング。まずは、混ぜずに、シングルでいただいてみます。

「香りから想像していたのと全然違う!」
「混ぜたら一体どうなるのか、全然想像できない。」

会場内からは、そんな声が次々とあがりました。

今回用意していただいた8種類は、生産者や産地の背景が見えるスペシャルティコーヒーの中でも、澤田さんが「トップスペシャルティ」と呼ぶ、希少性の高い豆。もちろん、どれもシングルで十分に楽しめる、個性豊かなコーヒーたちです。ほかのメンバーと交換したり、別の種類を「おかわり」してみたりと、うっかりブレンドすることを忘れ、ほとんどの参加者が全種類をテイスティングすることに。自分の感覚と、事前にレクチャーいただいた豆や精製方法などの情報を手がかりに、味の香りを記憶に刻んでいきます。

ひと通り味わったら、いよいよブレンドです。

好みの味に近づけるため、配合を微調整する人。気になる豆を生かすためのベストな組み合わせを探す人。なかには、「最初はまったく候補に考えていなかった種類の豆が気になってきた」と、イチから選び直す人もいます。

同じ豆でも分量によって印象がまったく変わるため、ブレンドの可能性は無限。まさに「沼」です。

普段から飲み慣れた味を目指すのか、ガツンと印象に残るような個性を求めるのか。アクセントとなる豆の個性を際立たせるのか、全体の調和をとるのか。出来上がりの味を想像しながら「これぞ」という2種を選び、思い思いのバランスで配合していきます。

「コーヒーは嗜好品。だから、おいしいと思うものは一人ひとり違っていいと思っています。正解はありません。」

澤田さんは話します。

「舌と嗅覚をフル活用して、自分の好みに合った味を深掘りしてみてください。」

一番人気は、最も繊細なコーヒー

それぞれの「正解」ができあがったところで、最後にちょっとした答え合わせを。

ベースとして一番人気だったのは、エクアドル産のウォッシュド。シャープでクリーンな酸味が特徴の、8種類の中でも繊細な味わいのコーヒーでした。

この結果には、澤田さんも少し驚いた様子。

「今回、エクアドルをベースに選んだ人が一番多かったのを見て、日本人の舌はやっぱり繊細なんだなと。私のほうが勉強になりました。」

普段食べているものや食文化によって、好まれるコーヒーにも違いがあるのだそうです。たとえば、辛いものや味の強いものをよく食べる地域では、インフューズドやアナエロビックなど、より輪郭のはっきりした味わいが好まれることも。一方、日本ではウォッシュドのような繊細な違いを楽しむ人が多いと澤田さんは言います。

「日本人は、いろいろなブレンドやシングルを飲み分けて楽しめる、もともとの才能があるように思います。」

こだわりのおいしいコーヒーといえば、シングルオリジン。そんな一般的なイメージを覆すような、複雑で奥深いスペシャルティコーヒーのブレンドの世界。組み合わせの相性を想像しながら、じっくりと嗅ぎ、味わうことで、苦味や酸味の奥にある繊細な香りにも意識を向けることができました。

次の一杯からは、コーヒーを飲む前に、少しだけ長く香りを嗅いでしまいそうです。




Text by Mari Minakuchi