渋谷区ふれあい植物センター

season2 ②お酒を通じて「渋谷トロピカル」を体感!渋谷酒プロジェクト第2弾お披露目イベントが開催されました

3月22日、植物園の植物を原料に使ったオリジナルの酒、「渋谷酒」第2弾のお披露目イベントを開催しました。約30名の参加者と共に、コラボレーションした福島「haccoba -Craft Sake Brewery-」(以下、haccoba)代表、佐藤太亮さんをゲストにお迎えした当日の様子をお届けします。

by Naoko Asai

植物園のありのままの姿が詰まった、お酒をみんなで乾杯!

「渋谷酒第2弾のテーマは“渋谷トロピカル”です」。

2025年2月に訪れたhaccobaでの蔵見学&体験ツアーの際に、小倉園長から渋谷酒プロジェクト第2弾のテーマが発表されました。植物園で収穫したパイナップルやライチ、ジャボチカバといった果実や、レモングラスやレモンマートル、シナモンマートルといったハーブ類を副原料として米の酒に投入します。ただし、皆さんご存じのように、渋谷区ふれあい植物センターは、「日本一小さい植物園」としても知られている通り、限られた面積で植物を栽培しているため、どうしても収穫量に制限が出てしまいます。

お披露目イベントでの乾杯後スタートした、haccoba代表の佐藤太亮さんと小倉園長のトークでは、まず、その点について、佐藤さんが振り返るところから始まりました。

小倉園長(左)と佐藤さんによるトーク風景

―制限がある中で、今回のテーマ、「渋谷トロピカル」を表現するのはなかなか難しかったのではないでしょうか?

佐藤太亮さん(以下佐藤):そうですね。普段、僕たちが造る際は、イメージする味わいに向けて副原料の量を追加すればよいのですが、今回は、最初から使用できる量が決まっていたため、どのように“トロピカル感”を出すかがポイントでした。いつもは、今回副原料として使用した量の10倍以上くらい入れることが多いのですが、今回は、植物園で採れた素材を使い、かつ、今表現できる渋谷の植物園で採れたフルーツやハーブの酒を表現していくという、リアルさに僕らはこだわって造ったので、出来上がったお酒から感じるフルーツの素材感はすごく繊細なのですが、ちゃんと鼻を近づけてかいだりしてもらえたら感じていただけると思います。

小倉園長(以下小倉):いま、佐藤さんがおっしゃったように、現状に限りがある中で、植物園でお酒を造ることって、「こういう酒を造りたい」という目標に近づけるというよりは、たとえば、ワインやウイスキーが、それを産んだ土地の風土や暮らしがあるから生まれるように、日本で一番小さい渋谷の植物園の2024年が詰まっていることが大事だと思います。

「渋谷トロピカル」と名付けたのも、植物園は温室なので当然、トロピカルな植物が育つのですが、世界的にも気候変動が著しくて、昨年の夏も酷暑でしたよね。そういった状況も含めて、この一期一会なお酒に詰まっている。2024年に、この渋谷で育った子たちを、最良の造り手の方にお願いをしてそれを引き出してもらって、とても満足しています。

「渋谷トロピカル」を表現したラベルデザイン。ホログラムは多様な植物を抽象化したもの。そして、よく見ると、「渋谷」の字が浮かび上がってきます!

渋谷の植物園と福島の醸造所であるhaccobaが共鳴したポイントとは?

小倉:それから、佐藤さんはご自分ではおっしゃらないと思うので、僕からお話すると、佐藤さんは福島県の小高という、原発事故で住民がゼロになった町にあえて、haccobaを設立しています。そこで、事業を展開し、醸造所の数も現在は隣の浪江町も含めて3つまで増やし、雇用を生み出し、最近では、がんの治療研究を応援するプロジェクトにお酒を通して参画しています。そういった、お酒で様々な社会や地域の課題の解決に向けて活動をしている人だからとても興味深いですし、僕らもこの渋谷の植物を通じて、いろいろな人とつながったり、結果的に課題解決につながっていけたらと思っているので、とても共感できるんです。

―私たちが酒造りを体験させていただいたhaccobaの浪江町醸造所には、ヘラルボニー(岩手を主な拠点に福祉領域の新たな文化の創出を目指す会社)のアーティストによる鮮やかなアート暖簾がはためいていたのが印象的でした。そういった活動もたびたび話題になりますが、お酒造りに関しても、地元のお米農家さんとの関係をとても大切にしていらっしゃいます。今回の渋谷酒に使用したお米も地元産の「天のつぶ」ですよね?

「なみえアートプロジェクト『なみえの記憶・なみえの未来』」(浪江町の住民が残したい記憶と創りたい町の姿を屋外アートとして町中に掲出していくプロジェクト)の一環として、haccoba浪江醸造所には、ヘラルボニーによるアート暖簾が飾られています。

佐藤:はい。僕らの地元の南相馬市の豊田さんという方が作っているお米です。少し前から福島で作っているブランドですが、コシヒカリなどと比べると、どちらかというとさっぱり系の品種ですね。なので実はすごくお酒作りに向いていて、なおかつ、お酒にしたときも比較的すっきりした仕上がりになるような品種です。

実は、僕らも豊田さんのお米作りを少し手伝わせていただいてていて。もともと、豊田さんは、震災前までアイガモによる有機栽培をやっていたのですが、震災後は土をはいだり、区画整理をしたりで有機栽培ができなくなってしまったんです。ずっと再開を待ち望んでいたところ、嬉しいことに昨年再スタートしました。

再開までの間に、僕らの酒粕で有機肥料を開発してくれて、昨年からいっしょに田植えもさせてもらって。今はまだ本当に限られた田んぼなので、僕らもその有機の米を全量使用して酒造りはできないのですが、そういった形で少しずつ再開する過程もごいっしょしています。

―酒造りに使用する米もあまり磨いていないと伺いました。

佐藤:日本酒は大体、60%や70%、もっと削るものもありますが、基本的に米を削って造っていきます。でも、僕らはお米をほとんど削っていなくて、精米歩合で言えば、90%くらい(普通のごはんと同程度)ですね。せっかくいいお米、食べてもおいしいお米を使わせていただくのであれば、お米の周りのアミノ酸やたんぱく質といった個性も余すことなくお酒に詰め込みたいと思っているんです。だから、精米も、他の方たちの使用を妨げないよう、夜中にコイン精米を利用しています。近所のJAさんの精米機は、きっと僕らが一番の上客ですよ(笑)。

お酒を通して伝えたい、「いま、そこにあるもの」を使うくらし方

小倉:ちなみに今まで何種類ぐらいお酒を造ってきたんですか?

佐藤:設立してから3年ですが、レシピの数は、70は超えていますね。米以外の素材をたくさん入れるのもそうですし、ベースのお米で作るお酒の造り方も変えているので、本当に幅広く手がけてきました。

でも、ふと思ったんですが、さっき小倉さんがおっしゃっていた、もの作りの向き合い方について、僕はまさにそうで。今回の渋谷酒の造り的なキーワードとしては「ブリコラージュ」を結構意識しています。

小倉:(文化人類学者の)レヴィ=ストロースが掲げた概念ですね。

佐藤:はい。「ブリコラージュ」ってなんぞやって感じかもしれません。日本語訳だと、日曜大工と訳されたりしますが、対比するとわかりやすいのが「エンジニアリング」という言葉です。この「エンジニアリング」は、さっき小倉さんがおっしゃっていた味のゴールを決めて、そこに向けて逆算して造っていくみたいな造り方です。

対して、僕らが意識している「ブリコラージュ」という造り方は、どちらかというと、今、自分たちの暮らし中で手に入れられる素材で、最良のものを目指すという造り方で。

小倉:家で作る料理もそうですよね。

佐藤:そうですね。そして、エンジニアリング的なもの作りをしていると、100点はけっこう出していけるんですが、なんというか、絶対に出会えなかったであろう120点とか、そういう物作りってなかなか生まれてこないと思うんです。僕らはその120点を狙いたい。そこを常に意識していて。そうすると、そういうブリコラージュ的な、自分たちが手に入れられる素材で、ここから何ができるだろうということについて、頭をフル回転して作っていくことに懸けているところがあります。

今回も、今の渋谷で手に入る素材で、いかに最良のものを作り上げていくかという酒造りをしています。

―植物園でお酒を造る意味はそこにありますね。

小倉:そして、今日のイベントのように、できたお酒をみんなでいっしょに分かち合える。今日、完成したお酒を飲みながら、たとえば、来年はこんなフルーツを使ってみたいと思えば、育てていけばいいし、みんなで話しながら育てていったものを、醸造家に託してお酒を造るということが、この町の歳時記になっていったらいいなと思います。

お披露目イベントでは、植物園のカフェの五十嵐創シェフ(写真下)がこの日のためにメニューを考案。トロピカルでほんのあり甘いお酒には、ほどよくスパイスを効かせたタコスが合うと、1枚1枚その場でトルティーヤを焼いて、参加者の皆さんが好きな具材を好きなように包む、手巻きタコスパーティにしました。メインの具材は、「猪×醤油」「グラスフェッドビーフ×オレンジジュース」「大豆ミート×スパイス」の3種類。ソースは、「トマト×ライム」「パッションフルーツ×生胡椒」「辛子×パプリカ」「パクチー×ニンニク」の4種類。さらには、香りや食感のバリエーションを増やすために「ビーツ×赤ワイン×クローブ」「きゅうり×ジン×カルダモン」「アーリーレッド×みかん×シナモン」の3種類のピクルスを用意。「タコスと日本酒ベースのクラフトサケがこんなに合うなんて!」と参加者の皆さんも、いろいろな味の組合せをあつあつのトルティーヤに包んで、存分に楽しんでいました。

佐藤:ああ、なるほど。町の中だとそういうことと距離がありますもんね。

小倉:そうなんです。都会で暮らしていると、基本的には、お金を払って何かを買うだけでしょ。そうじゃなくて、自分たちでも何か作れたり、こういうものを生み出すことができるんだっていうことが実感できたらいいなと思っています。だから、味の優劣などはさておき、今日は本当にこの子(お酒)が生まれてくれてよかったなと。あ、もちろん、佐藤さんのお酒はほんのり甘くておいしいですよ!

佐藤:ありがとうございます(笑)。

小倉:今日参加している皆さんはよくご存じかと思いますが、酒はコミュニケーションツールとして最強ですよね(笑)。このお酒をきっかけに、皆さんにもこの植物園の果物やハーブのお世話のお手伝いをしていただけたら、それをみんなでお酒にできるという楽しみ方を加えられたらと思います。

都会にいるとどうしても農的なことって、ちょっと特別なレジャーになってしまいがちですよね。でも、そうではなくて、ごはんを食べたり、歯を磨いたりとか、何かそういう暮らしの中で、こういった植物があること、植物の世話をすることが普通になったらいいなと思っています。その上で、こんなおいしいお酒ができるんだったら何か育ててみようと思いませんか?(笑) 今日、参加した方はもちろんですが、ぜひ、今後も植物園に足を運んで、僕たちといっしょに植物を育てる人の輪が広がっていたらいいなと思います。

お披露目会では、今まで植物園から生まれた「渋谷東ビール」や、渋谷酒の第1弾も並び、渋谷で育った植物からお酒が生まれる過程に興味がわいた参加者も多数。

渋谷酒

植物園で採集した植物を素材で造る「渋谷酒(しぶやしゅ)」プロジェクトについてお届けします。