渋谷区ふれあい植物センター

2025年5月の日記

5月2日(金)曇りのち雨

世間はGW真っ最中。
先月書いた、アクアリウム。ようやく全ての小魚たちも揃って、正式に「水のなかの植物園」の看板を掲げ、来園者の方々に楽しんでもらえるようになった。
看板にはこうメッセージを記した。

『水のなかの植物園 Botanical garden in water』
小魚たちが排出したCO2を水草が光合成によって酸素と有機物へと合成しています。この水槽で行われているのは、古代から続く植物と人間を含む生物たちとの生命の営みと循環そのものなのです。

さて、来園者の方々は、一体どんな反応をされるのだろうかと、気になって何度もアクアリウムの前を行ったり来たりしていると、ひとりの男の子がじっとアクアリウムを見つめている。

まだ幼稚園生くらいの男の子だ。自分で看板のメッセージも書いておいていうのもなんなのだが、こんな言葉(=頭)ではなく、今、彼の頭の中には、きっと膨大な情報が入ってきているに違いない。水の揺らぎ、たくさんの水草や苔類などの植物の姿、その中をゆらめく小魚やエビなどの生き物たちの色や形や大きさや動き方。ぷくぷく浮かんでいる酸素。この光景が、生命誕生から彼自身の肉体が育まれている今この瞬間まで連綿と続いている。この営みそのものを丸ごと体験してくれている姿を見て、アクアリウムを設置できた喜びをようやく感じられた。

5月16日(金)晴れ

今日は、朝から神南小学校でトマトの栽培出張教室。
ふれあい植物センターの指定管理者となり運営するようになって、本当に嬉しいことのひとつがこうした地域の保育園や小学校の子どもたちと一緒に野菜を育てられる機会が増えたことだ。
約70名近くの子どもたちを相手に一人で教えてくのは、なかなかに大変だったのだが、どの子どもたちも自分のトマトをしっかりと育てようと、土の入れ方、そしてトマトの苗の定植の仕方を細かく尋ねてきてくれる。そして、一人一人の作業を見ていると、すごく丁寧に時間をかけて自分が納得するまで土を入れている子、苗がまっすぐ真上を向くように一度植えた苗を取り出して植え直す子などなど、みんなそれぞれの個性が出ていてとても面白かった。
そんな中、誰よりも早く定植を終えようと(早く終えることが勝ち!とゲーム感覚だったのかもしれない)結構荒っぽく苗を扱っている子がいた。大丈夫かなと気になっていたのだが、他の子どもたちに質問攻めに合っているうちに、ふと見回してみると、その子が先生の前で泣いていた。
どうしたのかと近寄ると、苗を折ってしまったらしい。
「もう、僕のトマトはない!」と泣く男の子に、「もしかしたら、この折れた苗を土に植えたら、根っこが出てきて育つかもしれないからやってみよう」と言って、折れてしまった苗を植え直したのだが、その子は半信半疑だった。
後日、先生からお礼の連絡が届いた。そして、「あの折れた苗ですが、ちゃんと根が出てるみたいで育っています!」と教えてくれた。
よかった!折れてしまった分、生育は他の子に比べて少し遅くなってしまうかもしれないけど、折れた苗でも、こうして育てることができるんだってことを身をもって体験したあの子は、他の子よりも大きな体験をできたんじゃないだろうか。こんなギフトをくれる植物はやはり素晴らしい。

5月26(月)曇り

今日は休園日だが、とても大切な工事があった。
来園いただいた方ならお分かりいただけると思うが、うちの植物園は天井の採光部分が小さく、またガラス面に覆われている空間にも直射日光は朝から午前中の早い時間しか入ってこないので、実は植物が育つにはやや厳しい環境である。
そこで、日射量を補完するために、LEDライトを設置する工事を行なうことにしたのだ。
日射量が少ないと、果実が着果せず、葉だけが茂ったり、病害虫が起こりやすくなったりもする。そのハンデを補うため、日々スタッフが知恵を絞り、こまめなお世話をしてきていたのだが、それにも限界がある。亜熱帯性の果樹がほとんどなのだから、現地の天候を思い返せばいうまでもない。
野菜や植物を育てようとする場合は、その野菜や植物の原産地を知るといいと言われている。例えば、トマト。トマトはアンデスの高地が原産。お日様がギラギラと照り付け、水はほとんどない過酷な環境で生まれたトマトだから、真夏の照りつける太陽でこそ旺盛に育つ。
ライトを点灯すると、園内が一気に軽くなった。さあ、みんな。故郷を思い出してごらん。そして、すくすくと育ち、よければ美味しい果実のお裾分けを僕達にくれないかな。

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