「渋谷茶復活プロジェクト」2年目の挑戦! 渋谷の地に蘇るお茶の歴史を飲んで学ぶ

2025年5月17日(土)、渋谷区ふれあい植物センターにて「渋谷茶復活プロジェクト」のイベントを開催しました。昨年から始まったこのプロジェクトは、今年も多くの方にご参加いただき、大盛況のうちに幕を閉じました。その様子をレポートします。
by Naoko Asai
「渋谷茶」ってなに? 渋谷に息づくお茶の歴史と未来の茶畑
お茶といえば宇治茶や狭山茶など、銘産地の名前にちなんだお茶はよく知られています。同じように、江戸〜明治の頃には、松濤の辺りなど渋谷のあちこちでお茶が栽培され、「渋谷茶」として出荷されていたそうです。驚くことに、渋谷区には当時の原木が4本残っていることがわかり、渋谷区に本社を構えるお茶メーカー、伊藤園さんのご協力をいただきながら、種を採取し、「渋谷茶」の苗木を育ててきました。昨年は植物園の屋上に「茶畑」を作るべく、ボランティアの皆さんたちと苗木を植えました。4、5年後には渋谷で茶摘みができることを期待しながら、植物園では日々お世話をしています。
植え付けから2年目を迎えた今年、「渋谷茶復活プロジェクト」の輪をさらに広げるために、今年も伊藤園さんとタッグを組み、5/17(土)に渋谷茶のワークショップを開催しました。二部制で総勢40人、募集開始後たちまち満席になり新茶の季節も相まって、皆さんのお茶に対する関心の高さがうかがえます。
まずは、「渋谷茶」の歴史を振り返るところからスタートです。今回のイベントに参加して初めて渋谷でお茶が栽培されていたことを知ったという方も多く、皆さん、とても興味深そうに耳を傾けます。

屋上でいつか茶摘みを! みんなで苗木を観察し、お茶の奥深さに触れる
「1年でこんなに育つんだ!」「お茶の木ってこんなふうに育つんですね」。渋谷茶の歴史を学んだ後は、みんなで屋上のガーデンに移動し、昨年植え付けたお茶の苗木の成長の様子を観察します。昨年、10㎝くらいだった苗木は、今年は30㎝近く成長したものもあり伊藤園の栽培担当の方も「順調に育っていますね。ここの苗木は元気がいいですよ」と目を細めます。昨年自分が植えた苗木を見つけた参加者もその成長ぶりに感慨深そうでした。


写真上/苗木の生態や状態について説明する、株式会社伊藤園 農業技術部の村松浩明さん。(写真左から3人目) 写真下/元気に育つ渋谷茶の苗木。
すくすく育つ苗木の観察後は、伊藤園の農業技術部の村松さんから、植物としてお茶がどのように育っていくのかレクチャーを受けました。挿し穂作りに始まり、挿し木になるまで1年。植え付けたあとは4〜5年後くらいに収穫が可能になります。また、普段はなかなか知ることのできない茶畑の年間スケジュールや、1738年頃から始まる宇治製法に端を発する日本茶の製造の歴史、手揉み茶の作り方について教えていただき、お茶についての基礎知識を学びました。
また、お茶の中でも、「緑茶」と呼ばれるカテゴリーには煎茶、深蒸し煎茶、ほうじ茶、抹茶、玄米茶、玉露と、様々な種類があることや、お茶の三大産地、静岡県、三重県、鹿児島県についてなど、盛りだくさんのトピックスからお茶の広くて深い世界が垣間見えてきました。


写真上/苗木作りについて説明する村松さん。 写真下/渋谷茶の歴史に続き、お茶の種類や産地についてレクチャーする株式会社伊藤園 販売促進部の関口直均さん。
レクチャーの傍ら、参加者の鼻腔をくすぐったのが手揉みの実演から漂ってくるお茶の香りです。「私たちがふだん飲んでいるお茶はほとんどが、機械刈り・機械揉みですが、昔は手摘み・手揉みでした。今でも、品評会などに出品するお茶は手揉みで仕上げています」と村松さん。村松さんは、静岡県茶手揉み保存会師範、2010年第14回全国手揉み製茶技術競技会優勝、2021年第43回静岡県手揉み製茶技術競技会優勝と輝かしい実績を持つ名人です。今回、伊藤園さんが特別に持ち込んでくださった焙炉(ほいろ:熱源を設置し下から温めてお茶の葉を手揉みするための台)の上で、手際よく茶葉を揉んでいきます。


イベントスタート時にはふわっとしていた茶葉(写真上)も、手揉みを続けることで終わる頃には細い針のような状態になりました。
手で摘んだ新芽を蒸し、温度や揉み方、力加減を調整しながら針のようなお茶に仕上げるまで、なんと約6時間! 約300年前に発明された手揉みの技術は、時代の流れの中で改良されながら約100年前に完成されたそうです。この日は名人芸の見学だけでなく、参加者の方たちも実際に手揉みを体験。「柔らかいお茶の葉の感触が気持ちいい」「やってみるととても難しい」と皆さんわいわい感想を述べながら貴重な機会を満喫していました。

お茶はコミュニケーション。味わいと体験を深めるお茶の世界
座学や観察、手揉み体験と続いたあとは、いよいよ実際にお茶をいれて飲むワークショップへ。まずは、水やお湯にすぐ溶ける粉末タイプの緑茶、玄米茶、ほうじ茶3種類を試します。試飲していると、そこへマンゴージュースが注がれたグラスがサーブされました。そこに、先程作った緑茶をマンゴージュースに浮かべた氷を目がけて注ぐと、緑茶とジュースの比重の違いできれいなセパレートティーができあがるのです。目にも楽しい新たなお茶のアレンジはおもてなしにも使えると好評でした。



あっという間にできる緑茶、玄米茶、ほうじ茶3種類の飲み比べ。緑茶とマンゴージュースで作るセパレートティー(写真一番下)はそっと緑茶を注ぐのがポイントです。
いよいよイベントの終盤では、2人1組になっておいしいお茶のいれ方を実践します。使用するのは今年の新茶。急須の持ち方、おいしくいれるコツを伊藤園の清田義隆さんから学びます。相手のためにいれることを意識すると、よりおいしくお茶をいれようという気持ちになることがポイント。初対面の参加者同士も打ち解けて、お互いにお茶をいれあうことで場の雰囲気も和みます。お茶を飲むことがコミュニケーションにつながっていることを改めて感じられるワークショップとなりました。


急須の持ち方からおいしくいれるコツまで学び、みんなで味わいました
そして、この日の参加者の中で渋谷区在住の方には、渋谷茶の苗木をプレゼントするというサプライズがあり、ご家庭での苗木の栽培に挑戦していただくことになりました。今後も、渋谷で栽培される渋谷茶の輪を広げるために、苗木の植え付けの数を増やしたり、お茶の楽しみ方を知るイベントなどを開催していく予定です。渋谷での茶摘みが実現されるその日まで、引き続きご注目ください。