6月の園長日記
6月5日(木)晴れ

この時期、私たちスタッフにとって欠かせない作業がある。
それは、植物たちの受粉。
今朝も屋上にあがるとパッションフルーツの花が咲いていた。この花はクダモノトケイソウと呼ばれていて、正面から見ると、まさに時計のような形をしている。この花は1日しか咲かない。なので、毎日、こうしてチェックして、咲いている花があればせっせと受粉をする。筆を持って、五つあるおしべの裏側にびっしりとついている黄色の花粉を、上の3つあるめしべに塗りつけるようにして受粉する。
それから2、3週間すると可愛い緑の実がつく。そうして、さらに2、3ヶ月経つと完熟して食べ頃となるのだが、こうして、筆を持って受粉作業をしていると、不思議な感覚になる。自分の指先(筆先)ひとつで、新しい実(生命)の誕生を司っているような感覚というか、まるで指先ひとつでこの宇宙の生命世界の調律をしているような気分になるのだ。
6月13日(金)曇り

今日は、一昨年のリニューアル以来、じっくりじっくりと育ててきたバナナの収穫をする。
バナナは大きな葉が42枚つくと、花が咲き、そこから徐々にバナナの実が大きくなっていくと聞いていたので、スタッフみんなで大きな葉が出るごとに「1枚、2枚」と数えていたのだが、本当に42枚の葉が茂ると、ある朝、突然紫色の花が咲いたのだった。これには本当に驚いた。
数日後、花びらの内側を覗き込むと、小さく折り畳まれたバナナの赤ちゃんたちがびっしりと格納されていて、さらにびっくりした。

そして、大きく花びらが開くと、花びらの裏側に格納されていたバナナたちが一斉に動き出す。
なんだか、ガンダムみたいだ。
だが、刻一刻と成長していくバナナの様子を眺め続けていると、なんて精緻な生命の設計なんだろうと気付く。

そして、ゆっくりゆっくりと熟したバナナを収穫した後、早速、スタッフで食べてみることにした。
ナイフを入れた瞬間から甘さが立ち昇ってきた。
ねっとりとした濃厚な甘さと香りが口いっぱいに広がる。
一瞬、自分が、まるで南国の熱帯の濃密な空気の中にいるように感じた。
この味わいこそが、このバナナに施された精緻な生命の設計の答えなのだったのだ。
6月21日(土)晴れ
朝、開園準備をしながらふと外に目をやると、暑い中、すでに多くの人たちが列を作っている。

みなさん、これから行う『土の譲渡会』を待ってくださっているのだ。
ふれあい植物センターでは、コミュニティコンポストを設置し、株式会社 ローカルフードサイクリングさんと共同で家庭の生ごみや施設のカフェから出る生ごみを堆肥化している。この堆肥に赤玉を混ぜ合わせて培養土として区民に配布するのが、『土の譲渡会』である。
渋谷区には身近にホームセンターがないので、家庭菜園をしていてもすぐに良質な土を手に入れることは難しい。しかし、それが、日々の家庭から出る生ごみを堆肥化すれば、ホームセンターに行かなくとも良質な土が、誰でも無料で手に入れることができるから、私たちはコンポストを推奨している。(毎月、コンポスト講座やコンポストアドバイザーによる相談も受付している)

『土の譲渡会』が始まる頃には、さらに人が集まり、用意していた大量の培養度がどんどんもらわれていく。「こういう取り組みはありがたい!」「すぐにプランターの土に入れてみる」などなど会話をしていると、普段はコンクリートとアスファルトだらけにしか見えない渋谷の街でも、ここで暮らす人たちが植物や野菜を育て、愛で、味わっているんだということを実感する。
家庭の生ごみを焼却に回さずに堆肥にする人と、その堆肥を使って野菜や植物を育てる人が手をつなげば、この渋谷からでも小さな循環の輪を生み出すことができる。そして、この輪を少しでも大きな輪にしていくことが私たちに与えられた仕事のひとつなのだと思っている。