渋谷区ふれあい植物センター

8月開講の漢方講座記念プレイベント:映画『うんこと死体の復権』上映&特別トーク〜いのちの循環 – 人間もまた自然である〜開催レポート

2025年5月25日(日)渋谷区ふれあい植物センターにて、8月より開講する漢方講座の記念プレイベントとして、映画『うんこと死体の復権』の上映会と、関野吉晴監督、漢方家・杉本格朗さんによるトークイベントを開催しました。イベントに付けられた副題は「~いのちの循環 – 人間もまた自然である~」。

「うんこ」に「死体」とインパクトが強い言葉が並ぶ映画と漢方がなぜつながるのか? 宇宙の話から始まった関野監督と杉本さんのトークセッションから、漢方講座のベースに流れる人間と自然への深いまなざしが垣間見えてきました。講座の受講を考えている方は必読です!

by Naoko Asai

循環の三賢人に密着して描かれた映画『うんこと死体の復権』が問いかけるもの

昨年の封切りながらも、口コミでじわじわと評判が広がり自主上映会が続く本作。植物園でも募集が始まるやいなやたちまち満席御礼となりました。「グレートジャーニー」で知られる探検家で医師の関野吉晴さんが監督。現代社会において不潔なもの、無きものとされがちな「うんこ」や「死体」を、排泄をするための山まで購入し野糞人生を貫く伊沢正名さん、うんこから生き物と自然のリンクを考察する生態学者の高槻成紀さん、死体喰いの生き物たちを執拗に観察する絵本作家の舘野鴻さんという3人の賢人の活動を通して見つめ直すドキュメンタリー映画です。そこには、無数の生き物たちが織りなす「持続可能な未来」へのヒントが隠されており、私たち人間もまた自然の一部であることを強く訴えかけます。

そんな映画に魅せられ、共感し、応援しているのが8月から植物園で始まる漢方講座の講師、漢方家・杉本格朗さんです。映画の上映後は、漢方講座開講を記念する特別イベントとして、関野監督と杉本さんのトークセッションが開かれました。

©2024「うんこと死体の復権」製作委員会

映画の公式フライヤー。裏面には歴史研究者・京都大学准教授の藤原辰史さんや、ザ・クロマニヨンズの甲本ヒロトさんのコメントも。

映画のきっかけは「地球永住計画」!? 先住民の暮らしから眺める伝統医療と現代医療の関係性

トークイベントの冒頭、関野監督は、ご自身のライフワークである「地球永住計画」に触れ、地球の未来を語る際に取り上げられがちな火星移住ではなく、この優れた地球で私たちがいかに生き続けていくかを考えることの重要性を語りました。そもそも、『うんこと死体の復権』に登場するトップバッター、伊沢さんとは、いっしょに「地球永住計画」のプロジェクトに取り組んでいるというつながりもあります。

関野監督は、地球の豊かな自然環境が空気や重力、太陽との絶妙な距離感、そして月の存在によって成り立っていることを挙げ、特に地球の磁場が太陽風から私たちを守り、高度な生命の進化を可能にしてきたことを熱く説明されました。そして、現代社会が「7世代先」の未来を考えるアメリカ先住民、イロコイ族の思想から学び、それが無理ならせめて「孫の世代」、つまり50年先の未来を見据えることの重要性を訴えかけました。

また、関野監督といえば「グレートジャーニー」でご存じの方も多いかと思いますが、長年にわたるアマゾンの先住民との交流から、彼らがうんこや遺体を土に還し、ゴミも自然に戻すことで、自然の循環の輪の中に生きていることを紹介。「人間もまた自然の一部である」というメッセージが伝わってきました。

©2024「うんこと死体の復権」製作委員会

関野吉晴プロフィール

1949年東京都墨田区生まれ。1975年一橋大学法学部、1982年横浜市立大学医学部卒。一橋大学在学中に探検部を創設し、1971年アマゾン全域踏査隊長としてアマゾン川全域を下る。その後25年間で32回、通算10年以上にわたり南米を旅し、現地での医療の必要性から医師(外科)となる。武蔵野赤十字病院などに勤務しながら南米通いを続ける。1993年より、人類がアフリカからユーラシア大陸、アメリカ大陸へと拡散した約5万3千キロの行程を人力で遡る旅「グレートジャーニー」を開始。南米最南端から10年かけ、2002年にタンザニアにゴール。2004年からは「新グレートジャーニー 日本列島にやって来た人々」をスタート。シベリア経由の「北方ルート」、ヒマラヤ経由の「南方ルート」を経て、2011年にインドネシアから石垣島までの丸木舟航海「海のルート」をゴール。1999年植村直己冒険賞、2000年旅の文化賞受賞。2013年国立科学博物館にて特別展「グレートジャーニー・人類の旅」。2002〜2019年武蔵野美術大学教授(文化人類学)。

一方、杉本さんは、関野監督の長年のファンであることを明かしつつ、なぜこの映画が漢方講座のプレイベントとしてふさわしいと考えたのかを語ります。

杉本格朗プロフィール

漢方杉本薬局代表。1950 年創業の漢方杉本薬局(鎌倉市大船)3代目。 大学では染色や現代美術を学び、2008年に実家の杉本薬局に入社。 2021年に表参道GYRE4Fのeatrip soil内に出張相談所「杉本漢方堂 Soil」を設立。漢方の長い伝統と奥深さに触れ、店頭での漢方相談を主軸に、生薬の薬効、色、香りを研究している。漢方の視点から世界中の文化を理解し、暮らしを豊かにする活動をライフワーク としている。坂本龍一氏主宰のイベント「健康音楽」や「逗子海岸映画祭」、「無印良品」などで、ワークショップ やイベントなどを展開。漢方を日本の文化の一つとして、JAPAN HOUSEやThe Japan Foundation など、海外での講演も行っている。また、漢方の枠を越えて、生薬を使ったインスタレーションを制 作するなど、さまざまな分野で幅広く活動している。漢方監修 G20大阪サミット「配偶者プログラム」 温泉宿「SOKI ATAMI」 など。著書『鎌倉・大船の老舗薬局が教える こころ漢方』

「漢方の根底には”人の身体を地球や自然界と同じように捉える”という”整体観(せいたいかん)”という考え方があります」と話し、自然界で起きていることが人の身体でも起きていることと捉え、漢方では「土」が「胃腸(消化器)」に当たると説明。うんこや死体が土を豊かにし、それが植物や生物の糧となるように、胃腸を良い状態に保つことが身体全体の健康につながるという漢方の考え方を、映画のテーマである「いのちの循環」と重ね合わせました。

さらにお二人の間では、伝統医療と現代医療のあり方についても興味深い議論が交わされました。関野監督は、アマゾンやアンデス、チベットなど様々な地域の伝統医療に触れてこられた経験から、それぞれの文化に根ざした身体観や病気の捉え方があることを紹介。チベットにおいては、西洋医学と伝統医療の両方で診てもらうことで「2倍効く」と考える人がいるというユニークなエピソードも披露されました。

昨年、インドのアーユルヴェーダを取り入れた病院を視察した杉本さんは、現代医学の即効性と伝統医療の長期的なアプローチについて言及しました。映画の中で「分解のスピード」が自然の方が速いと示唆されたことに着目。一時的に症状を抑える対症療法ではなく、根本的な回復を目指す自然医療のあり方について考察を述べると、関野監督もまた、ご自身が現在実践されている「旧石器時代の暮らし」(監督いわく「徒手空拳」の暮らし)を通じて、自然と一体となった生き方や代替療法の可能性を追求されているとのことで、参加者たちはその深い探求心に感銘を受け、トークイベント終了後は質問も飛び出しました。

8月開講! 映画を通して深まった漢方講座への期待

今回の映画上映会とトークイベントは、8月から開講する漢方講座のプレイベントとして開催されました。漢方と聞くと、直接的に映画のテーマと結びつかないと感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、今回のイベントを通じて、その深い繋がりが明らかになりました。

漢方の考え方の根底には、「人間も自然の一部であり、自然の摂理に沿って生きている」という思想があります。映画が描く「いのちの循環」は、まさにその思想と共通するものです。自然界の「土」が万物の生命を育むように、人間の身体における「胃腸」もまた「気」を生み出し、心身の健康を支える土台となります。

このイベントは、私たちが日々忘れがちな「自然との繋がり」や「いのちの循環」という視点から、改めて自分たちの身体と心の健康、そして50年先の地球の未来を考える貴重な機会となりました。8月から始まる漢方講座は、この映画を通じて感じた「人間もまた自然である」という視点をさらに深め、日々の暮らしの中で漢方の知恵をどのように活かしていくかを学ぶことができるプログラムとなっています。漢方講座にご興味をもった方は、ぜひこちらからお申込みください。皆さまの参加をお待ちしております!

漢方講座 in 渋谷ふれあい植物センター(2025)

1950年創業、漢方杉本薬局の杉本格朗が直接指導する特別な漢方講座。

一年を通して全4回、毎回テーマを変え、漢方の理論と実践を深く学びます。
座学に加え、生薬を使ったお茶、薬膳料理、薬膳酒、入浴剤などのワークショップも実施。
少人数制で個別相談や質問も可能な贅沢な内容です。

自然哲学から成り立つ漢方は、もともと人の暮らしのすぐ側にありました。もちろん現代も人は自然と共に暮らしています。
健康とは「健体康心 – 健やかな体と康(やす)らかな心 – 」 とあります。現代医学の発展で様々な治療方法が発達すると同時に、見直すべき伝統医療の「漢方」。
一人ひとりの身体に合ったケア、不調の根本的な原因にアプローチすること、現代における健康的で豊かな暮らしとは何か。
一年を通して考え、楽しみながら学ぶ場を作りたいと思っています。

各回とも、直接みなさまのお悩みに応じてアドバイス。
少人数制だからこそ叶う、密度の高い学びと実践の時間です。

漢方の本質を体感し、自分や家族の健康に活かしたい方はぜひご参加ください。

– こんな方におすすめ –
漢方薬に興味があり学んでみたい方。
漢方を何度か学んでみて、質問や疑問点などもう少し深掘りしたい方。
座学と合わせて、実際にブレンドを楽しみたい方。
疲労感、冷え性、むくみ、肌荒れ、婦人科、更年期、ストレスや不眠など、慢性的に不調を感じている方。
季節の変わり目に体調を崩しやすい方。
心身のバランスを整えたい方など。

□開講日時:実施月の第4日曜日

①8/24(日) ②10/26(日) ③12/21(日) ④2026/2/22(日)

全4回  各回 16:30-18:00(90分)

□内容:約60分の座学後、各回のテーマに沿って、個別に漢方アドバイス。それに基づき生薬をミックスして持ち帰り。質疑応答もあり

□定員:15名限定

□受講料:全4回一括申し込みの場合 ¥35,200

                 (1回あたり¥8,800)

    ドロップインで申し込みの場合 1回につき¥9,900

※受講料には生薬の材料費、消費税が含まれます

 

 第1回 
2025年8月24日(日)「陰陽五行説と体質診断 ~自分のバランスを知る~」

陰陽五行説は漢方の根幹をなす理論。
人は自然界の一部であるという考えのもと、「陰・陽」、「木・火・土・金・水」の基礎を学びます。
自然の摂理に沿った体質や不調の根本原因を理解し、日々の暮らしに役立つ知識を習得します。

【ワークショップ】
薬膳スープのブレンド作り 朝鮮人参、クコの実、ナツメなど、自分の体質に合った生薬を選び、自身で計りながら、参鶏湯のようなお鍋やスープのもとをブレンドします。
– こんな方におすすめ – 薬膳を食卓に取り入れてみたい方、湿気や暑さで体調を崩しやすい方、夏場を元気に過ごしたい方など。


 第2回 
2025年10月26日(日)「気・血・津液のバランス」

漢方では「気・血・津液」のバランスが健康の鍵。
気虚・血虚・津液不足・気滞・瘀血など、具体的な症状と漢方処方をわかりやすく解説。

【ワークショップ】薬草入浴剤作り 紅花、ヨモギ、陳皮など、植物の香りや薬効を学びながら、オリジナルの薬草入浴剤を作ります。
– こんな方におすすめ – 冷えや疲労でお悩みの方、入浴時間を楽しみたい方など。  

第3回 
2025年12月21日(日)「六気と冬の養生 ~風邪・インフルエンザなど~」

 漢方では「六気」(風・寒・暑・湿・燥・火)という大気(環境)が体調に大きく影響します。
冬は冷え(寒邪)によるトラブルが増える季節。
六気の理論をもとに、冬の過ごし方や風邪予防の漢方処方、日常のケア方法を学びます。【ワークショップ】生薬で作る本格薬膳酒(お屠蘇)作り お屠蘇とは、お正月にお酒に生薬を浸して飲む薬草酒のことで、邪気を払い、無病長寿を願う文化です。 新年をどのように過ごしたいか、イメージしながらブレンドを作ります。
※お酒が苦手な方は、薬膳シロップなどお召し上がり可能なものを作ります。
– こんな方におすすめ – 山椒、陳皮、丁字などオリジナルの薬膳酒(シロップ)を作ってみたい方、晩酌を楽しむ方、オリジナルお屠蘇で新年を迎えたい方など。

 第4回 
2026年2月22日(日)「七情と心身の漢方 ~感情と体の関係とそれぞれのケアの仕方~」

 「七情」(喜・怒・憂・思・悲・恐・驚)は感情面のお話ですが、心身の健康に密接に関係します。現代社会で増えるストレスや不眠、考えすぎや気分の落ち込みなど、感情が心身の不調にどのように関係し、漢方がどうアプローチできるかを解説。具体的な漢方処方やセルフケアもご紹介します。

【ワークショップ】漢方茶、漢方チャイ作り 桂皮(シナモン)、生姜、ハッカなど、自分の体質や目的に合った生薬を選び、自身で計りながら、ブレンドします。
– こんな方におすすめ – 日常で飲めるお茶で心身のケアをしたい方、体を温めたい方、リラックスしたい方など。

<補足>
・4回一括で申し込んだ方がやむをえず欠席される場合は、欠席回のレジュメとワークショップで作るものを後日お渡しします。
・講座の様子はメディアに掲載される可能性がございます。

植物や野菜のこと、種や土のこと、料理や食べること、伝統的な暮らしの知恵や、テクノロジーを活用した新しい取り組みまでそれぞれのジャンルで活躍する人やモノ、コトなどをここでしか読めない記事として発信しています。